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Webの糸

【1】

ある日の事でございます。
世界ネットワーク管理者は世界中の家庭や個人につながっているディスプレイを何気なく見ていらっしゃいました。
ディスプレイには検索サイトがあり、個人のブログがあり、女性の裸体があり、情報を騙し取ろうとする悪人のサイトもあります。 世界ネットワーク管理者は極楽にいらっしゃるお釈迦様のように世界中の人のやっていることをお見通しなのです。
管理者は朝の早くから女性の裸をニヤニヤとして眺めていましたが、お仕事のひとつである地獄サイトを閲覧されました。ネットワークで犯罪を犯したものが収容されてる地獄サイトという仮想空間でございます。
仮想空間も収容されている悪人たちはこのネット社会においてネットワークが一切使用できず現実空間でも一切の情報をえられないという重い刑をうけておりました。
世界ネットワーク管理者からは地獄サイトの一人ひとりがはっきりと見えるのでございます。 すると、そのサイトの底に、カンダタという男が一人、ほかの罪人といっしょにうごめいている姿が、お眼に止まりました。

このカンダタという男は、銀行の口座番号を盗んだり、善良な市民のブログを閉鎖させたり、いろいろ悪事を働いた大悪人でございますが、 それでもたった一つ、よい事をいたした覚えがございます。
と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さなクモが一匹、路ばたをはって行くのが見えました。
そこでカンダタは早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、 「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない、その命をむやみにとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ」 と、こう急に思い返して、とうとうそのクモを殺さずに助けてやったからでございます。
管理者は地獄サイトの様子をご覧になりながら、このカンダタにはクモを助けた事があるのをお思い出しになりました。
そうしてそれだけのよい事をしたむくいには、出来るなら、この男を地獄サイトから救い出してやろうとお考えになりました。
幸い、ネットワークの利用状態見ますと、まだまだ回線がありあまっておりました。
管理者はそのWebの糸をそっとお手にお取りになって、その回線を地獄サイトにおつなぎになりました。

【2】

こちらは地獄サイト仮想空間の血の池で、ほかの罪人といっしょに、浮いたり沈んだりしていたカンダタでございます。
何しろどちらを見ても、まっ暗で、たまにそのくら闇からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、 それは恐しい針の山の針が光るのでございますから、その心細さと云ったらございません。 その上あたりは墓の中のようにしんと静まり返って、たまに聞えるものと云っては、ただ罪人がつくため息ばかりでございます。
ここへ落ちて来るほどの人間は、もうさまざまな地獄サイトの責苦に疲れはてて、泣声を出す力さえなくなっているのでございましょう。
ですからさすが大悪人のカンダタも、やはり血の池の血にむせびながら、まるで死にかかったカエルのように、ただもがいてばかりおりました。

ところがある時の事でございます。
なにげなくカンダタが頭を挙げて、血の池の空を眺めますと、そのひっそりとした暗の中を、遠い遠い天上から、銀色のネットワークビームが、 まるで人目にかかるのを恐れるように、一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。
カンダタはこれを見ると、思わず手をうって喜びました。
このWebの糸にすがりついて、ネット回線を手に入れれば、きっと地獄サイトからぬけ出せるのに相違ございません。
いや、うまく行くと、世界ネットワーク管理室へ入る事さえも出来ましょう。
そうすれば、もう針の山へ追い上げられる事もなくなれば、血の池に沈められる事もある筈はございません。
こう思いましたからカンダタは、早速そのWebの糸を両手でしっかりとつかみながら、一生懸命に回線信号を解析し始めました。
元よりネットワーク犯罪者の事でございますから、こう云う事には昔から、慣れ切っているのでございます。
しかし手元にノートパソコンがあるわけでもないですから、いくらあせって見た所で、容易に解読はできません。
そこでカンダタはWebの糸をのぼっていくことにしたのです。この先には世界ネットワーク管理室があるのに違いないとおもいったのでございましょう。
ややしばらくのぼるうちに、とうとうカンダタもくたびれて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。
そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下をながめました。
すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた血の池は、今ではもう暗の底にいつの間にかくれております。 それからあのぼんやり光っている恐しい針の山も、足の下になってしまいました。
この分でのぼって行けば、地獄サイトからぬけ出すのも、あんがいわけがないかもしれません。 カンダタは両手をWebの糸にからみながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、「しめた しめた」と笑いました。
ところがふと気がつきますと、Webの糸の下の方には、数かぎりもない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるでアリの行列のように、 やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。
カンダタはこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、バカのように大きな口を開いたまま、眼ばかり動かして居りました。
自分一人でさえ切れそうな、この細いWebの糸が、どうしてあれだけの人数の重みにたえる事が出来ましょう。
もし万一途中で切れたとしましたら、折角ここへまでのぼって来た自分までも、元の地獄サイトへ逆落しに落ちてしまわなければなりません。 そんな事があったら、大変でございます。
が、そういううちにも、罪人たちは何百となく何千となく、まっ暗な血の池の底から、うようよと這い上って、細く光っているWebの糸を、 一列になりながら、せっせとのぼって参ります。
今のうちにどうかしなければ、糸はまん中から二つに切れて、落ちてしまうのに違いありません。
そこでカンダタは大きな声を出して、 「こら、罪人ども、このWebの糸はオレのものだぞ、お前たちは一体誰にきいて、のぼって来た、下りろ、下りろ」 とわめきました。
その途端でございます。
今まで何ともなかったWebの糸が、急にカンダタのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて切れました。 ですからカンダタもたまりません。
あっという間もなく風を切って、コマのようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに仮想空間へと落ちてしまいました。
後にはただWebの糸・・・ネットワークビームが、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。

【3】

管理者は世界ネットワーク管理室のディスプレイをのぞき、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、 やがてカンダタが血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうなお顔をなさりながら、また女性の裸をながめ始めました。
自分ばかり地獄サイトからぬけ出そうとするカンダタの無慈悲な心が、そうしてその心相当な罰をうけて、元の仮想空間地獄へ落ちてしまったのが、管理者から見ると、 浅間しく思えたのでございましょう。
しかし世界ネットワーク管理室のコンピュータは、少しもそんな事には頓着いたしません。
あいかわらず、その銀色に光る筐体はLEDをチカチカ点滅させております。
世界ネットワーク管理室ももう昼近くなったのでございましょう。
管理者はネットで牛丼をご注文になられました。

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調査員

「わあ!いったいおまえは誰だ」思わずおれは叫んでしまった。
テレビの11PMも終わったし、そろそろ寝よか、それとも深夜映画でも見ようかとつまらん事に悩んでいた時「こんばんは」と玄関で声がした。 こんな夜中にいったい誰が来たんかいなとブツブツ言いながらもドアを開けたらそいつがいた。
「こんばんわ、わたくし調査員でございます」
「ちよ、調査員?」
「はい」
「何の調査員か知らんがこんな夜中に、しかもその格好はなんだ」
そいつは銀色でぷかぶかのツナギのような服を着ていて、胸のあたりには見たこともない文字が印刷されている。真っ赤な長靴に真っ黒な手袋。 カルピスみたいな水玉模様のベルト。なんという色のとり合わせ。しかも、そのベルトは腹巻みたいに太い。
「え、この服のことですか、おかしいですか」そいつは両手を腰のあたりにあてがってクルリと一回転してポーズを作ってにっこり笑った。
「ああ、はっきり言っておかしい。それはまるで宇宙服だ」
「そうですよ」
おれは少しめまいがした。そんなことはおかまいなしにそいつはしゃべりつづけた。
「これは、わたくしどもの制服なんですよ。このベルトは今年の流行りでね。 まあ、うちの会社もイメージチェンジをしようとつい最近このユニフォームを採用することになったんです。 いいでしょ、この背中からお尻にかけてのフワッとしたライン。ね、ね。しかもね、性能がまたいいんですよ」
「性能?・・・・・・なんで服に性能が必要なんだ」
「だから言ったでしょ、これは宇宙服だって。この服を着てなけりやこんな水素の少ない星では生きてられませんよ。わたくし達は皮膚呼吸をしてますからね。この服には水素と酸素がたっぷりと入ってるんです。 そう、水素と酸素を取り入れて水を廃せつするんですね。この新しい制服を着ていると、あなた達の地球時間でだいたい40日くらいは生活できますからね。あはは、こんな話しをしに来たんじやないんだった。わたくしは調査員なんだから」
そいつは「さあ仕事、仕事」と言いながら長靴を履いたまま家の中へ上りこんで行った。


そのハチャメチャで非常識な男は勝手に台所へ入ると、食卓の椅子にすわりこんで手帳らしきものを出した。そして、なにやらメモをとり始めた。わけの分からないケッタイな文字を2〜3行書くと、おれにこんな質問をした。
「あなたはオスですか、メスですか?」
おれは泣きたくなった。
こんな夜中に見知らぬトンチンカンな男がひょっこり訪ねて来て、のこのこと靴のまま上り込む。 そして、ヤブカラボウにこんなことを質問されてみろ。
この世の常識とかモラルとかいったものの基準が崩れてしまって、正しい事と正しくない事の区別が分からなくなってしまう。 この男が異様なのだろうか、それとも、おれの性格が暗すぎるのだろうか。この男のしゃべっていることが普通ではないと思うのはおれの知識不足からきているのだろうか。 この非常識な男を追い返すことが何かしら、すごく非常識ではないかと思ってしまう。
「はい、私はオスです」
なぜか、おれは丁寧にこう答えてしまった。
「ははあ、あなたはオスですか、そうですか」やつはメモをとりながら話つづけた。「地球人は成人するとオスとメス一対でフーフしますね」
「はい、フーフします」
「あなたは成人ですか」
「はい」
「そうですか、それはよかった。するとこの巣にはメスもいるんですね」
「巣じゃありませんよ、カラスじゃあるまいし。家と言ってくださいよ、家と。それに成人するとみんな結婚して夫婦になる訳じゃありません。 中には独りで暮らしている人もいます」
「巣じゃなくって家。そうですか。成人してもフーフしない個体もいる。ははあ、そうですかメモしておきましょう……で、あなたはフーフしていますか」
「はあ、家内はおりますが」
「え、そうですか、そうですか、やっぱりこの巣、じゃなくって家にはメスの人間もいるんですね」
「はあ」
「どこにいますか」
「二階で寝てます」
「あ、そう、それじゃ・・・・・」男は手帳を持って立ちあがった。
「帰るんですか、帰るんですね」
「いや、二階にいるメスを見てきます」
「わあぁー、やめてくれ」
おれはとうとう泣いてしまった。
「や、泣いてますね、嬉しいのですか」
「嬉しかない。なぜおまえみたいな破廉恥なやっと一緒にいて嬉しがらにゃならんのだ。いったいおまえは誰だ、こんな夜中になにしに来た」
「調査です」
「わあああああ。おまえは役所の人間か。テレピ局の人聞か。元祖ドッキリカメラか。ビックリカメラか。仮面ライダーか。妖怪か。魔法使いか。 それとも宇宙人か」
「最後が正しい。わたくしは宇宙人です」
「わあああぁ。ぱ、ばかな事をいうな。おまえは漫画の読みすぎだ」


階段からペタペタとスリッパの音がした。
「うるさいわねえ。眠られないじゃないの」家内が二階から降りてきた。
「わあああああああああああああああああああああああああぁぁぁ、来るんじゃない。寝てろ。眠ってろ。二階へ行け」
「なに言ってんのよあなた。あなたこそもう寝なさいよ、明日はまた早いんでしょ、あらら、ごめんなさい。お客さんだったの、これはどうも失ネLしました」
家内はついさっきまでガニ股でつっ立っていたのに、男がいるのに気付くと急に内股になった。そして、両足を交差させて少し前かがみになってペコリとおじぎをした。
男は家内の体をジロジロとながめ回してから言った。
「あなたはメスですか」
「わああああ、そんなことをきくなコノヤロウ」
あたリ一面おれの唾が飛んだ。家内はおれが大声で叫んだのを軽く無視して男ににっこりと答えた。
「ええ、あたしメスですわよ」
「ああ、やっぱりそうですか。あなたはメスですか。あのね、ちょっとオスとメスの体の構造を調べたいのですよ。それがわたくしのメインの仕事なんですがね。おそれいりますがメスの方、その服を脱いでもらいたいんですが」
「ば、ばかなことを言うな」
おれは頭を両手で掻きむしった。手のひらを見ると髪の毛が10本ほど指にからまっている。また毛が抜けたなどと悩んでいる場合じゃない。いったいこの男は何物だ。本当に宇宙人かもしれんぞ。
「おほほほほ、この方おもしろい人ですね。なかなかハンサムだし。ビールでもお出ししましょか」
家内はそう言いながら冷蔵車から生ビールを2本出してきて栓を抜いた。
いよいよ常識と非常識の区別が分からなくなってきた。もういやだ。おれはやけくそでビールびんを掴み、ラッパ飲みでいっきに飲みほした。口の回りがビチョビチョになった。家内は「この非常識人間」というような顔でおれを見た。ああ、おれはこの上もなく非常識な人間に違いない。
「ははあ、人間のオスとメスでは性格がずいぶん違うのですね。オスは暗くて非常識だけど、メスは美しくて優しい」
「ま、うれしい。美しくて優しいだなんて。ま、どうぞどうぞ、おビールどうぞ」
「あ、どうもありがとう。それよりもメスの方、わたくしは仕事でここにやってきたのです。ゆっくりとこんな飲み物を飲んでばかりいられません。ちゃんと仕事をして帰らなければ上司に叱られます。 さ、さ、早く服を脱いでください。調査をしなければなりません」
「はい、それじゃ脱ぎましょうね」
家内は少しふざけて、パジャマの裾を上にずらして、もうちょっとで胸が見えそうになるくらいまで上げた。家内は寝るときにはブラジャーをしていない。
「わ−ああああ、やめろ」
「冗談ですよ、あなた」
「ばかやろう、じよ、冗談でもそんなことするな」
「いやあねジョークの分からない人は。なんなら下を脱ぎましょか」
家内は親指をパジャマのズボンのゴムにひっかけて10センチほどずらしてみせた。恥毛が5本ほど見えた。
「ぐわー。するな」
おれは、男の前にあったビールを鷲掴みにして、またもいっきに飲みほした。首から胸にかけてビチョピチョになった。
「あははは、ひっく、そうだそうだ、おれは、ひっく、非常識な男だ。付合いの悪い、暗い、くら−い人間だ。冗談もね、分からんのよ。それがどうした。それがどうした。こら、もう一本ビール持って来い」
おれの頭はモウロウとしてきた。


いつの間にか家内は男の横に椅子を並べてすわっていた。彼女も相当酔っぱらっている。ときどき男の肩にしなだれかかったりしているではないか。
男はひたすら家内の体を点検してはメモをとっている。テープルはビールびんでいっぱいになった。おれは、その二人をただ上目づかいて見ているだけであった。
「ははーん、だいたいメスの体が分ってきました。それでもやっぱりこの布っきれが邪魔になりますね。 えーとこの服の構造はと・・・・この胸のボタンを、この穴から抜きとると・・・・ははあ、外れましたね。この要領でもうひとつ、よいしょっと、もうひとつ、・・・・。なるほど、これで脱げますね。よいしょ。はい脱げました」
おれの目の前で家内の乳房がポロンとまろび出た。男はメモをとると、今度はパジャマの下を脱がせはじめた。
「え−と、これは逆さのY宇型をしていますから、ここを引っ張るとスポンと脱げますね。 よいしょ、あれ、ちょっとお尻を浮かせて下さい。そうそう上手です。はい。 あらら、もう一枚あるんですか、何のためにこんな薄いのをお尻につけてるんですかね。はいはい、これも脱いじゃいましょう。すいません、もう一度お尻をちょっと浮かせて・・・・1まい、よろしい、これでスッポンポンになりました」
やつはついに妻の下着までもはがしてしまった。
酔っ払っているせいか、この男の魔力のせいか家内の目は焦点が合っていない。たぶんおれだってそうなんだろう。宇宙人かなにか知らんが、いずれにしても初対面のこの男のすぐ横で妻がすっ裸になっている。それを、夫であるおれが、なぜ黙って見ているのか自分でも分からない。たぶん、そんなにたいした出来事ではないんだろう。世の中にはいくらでもある事なんだ。
家内は焦点の合わない目をおれの顔に向けて、ニコッと笑った。自慢気な額だった。脳みそのほんの片隅でくやしいと思った。だが、その嫉妬もすぐどこかに消えた。妻が幸せであって、なぜいかん。そうだ。妻の幸せはおれの幸せ。ああ、なんてこの世はすばらしいんだろう。
「これこれ、オスのかた。あなたも早く脱いで下さいよ。わたくしは忙しいんですから。太陽が昇るまでに宇宙船に帰らなければならないんですから。地球の日差しは強いですからね。さあ、早く。わたくしはこの人の調査を続けますから、あなた自分で脱いで下さい。さっ、早く」
「はい、すいません」
「ははあ、地球人のメスは服をはがすとずいぷんと凹凸があるんですね。なんですかね、この、胸のあたりのふくらみは・・・・・ずいぷんと軟らかいものですね。 この先っちょのポッチンは・・・・やっ、”あはん”と言いましたよ。ちょっとつまんで……ややややっ、どうしたんですかこの人。そんなに抱きつかないでくださいよ。メモができないじゃないですか。ふくらみが二つあるけど、なぜなんだろうね。こっちもつまんでみましょか・・・・わっ、また抱きつくう。もう。なんだろうねこの軟らかいプリンとしたものは。ああ、地球人は難しい・・・・・・」
「あの、すいません」
「なんですか」
「あの、服を脱ぎましたんですけれども」
「はいはい、それじゃこっちに来なさい。ここに二人ならんで下さい」
おれと家内はテーブルからはなれて床の上にすわった。すっ裸のままである。
「それでは、オスとメスの構造の違いを調査してみましょう・・・・・ややっオスには胸のふくらみがありませんな、ポッチンはどちらにもあるけれども・・・えっ?なんですか、はあはあ、これはチクビというんですか。さすが地球人のメスさんは優しい。教えてくれてどうもありがとう。メモしておきましょう。チ、ク、ビ・・・・と、・・・・ええ−と、それから・・・・やや、やややや。これはなんですかキュウリの腐ったようなものは、こんなものメスには無かったはずだ。どれどれ、ふむ、やっぱり無い。ええと、地球人のオスにはキュウリの腐ったようなものが股にぶらさがっている・・・・と、メスには無い・・・・・と。なるほど、なるほど。だいたい分かってきましたぞ。それではと、写真をとって おきましょう。はい、いいですか。あん、そんなんじゃだめ。オスとメスの違いがはっきりと分かるようにしなけりやだめでしょ。もっと脚をひろげ・・・・そうそう・・・うわ、大胆・・・え、いやいやなんでもありません。わたくしは調査員です」
フラッシュが光った。パシャ、パシャとシャッターをきる音がする。
「さあ、もうすぐ終わりですからね。がんばって下さいよ。それでは今から地球人の生殖行為の調査を始めます」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
「どうしたんですか、ほけ−として。せ、い、しょ、く、こ、う、い。分かりませんか・・・え、分かりますね。それじゃどうぞ」
 「・・・・・・」
 「・・・・・・」
「これ、ぐずぐずしないで早くしなさい。時間がありません。はいスタート!!・・・・・・そうそう、その調子」
おれは何がなんだか分からないまま家内の肩を抱きよせた。家内もその気になっていた。何度も何度もフラッシュが光ったような気がする。
「そうそう、なかなかいいですよ。はいはい、やや、上に乗・・・・それから脚を・・・・なるほど。 な、なんと、そんなにしたら・・・・うわ、今度は・・・・手が・・・・うわ、からまって、 えっ、そんな事もやっちゃう・・・・お尻に・・・あらら、なんと逆になって・・・・・そこが、そんなに・・・・もう、大変。 キュウリが・・・。そこんとこ、あはは、すみませんよく見えないんだけれども・・・・。・・・・わっ、見えた。 まさか、そんな・・・・・すごい・・・わっ。・・・おっ・・・なんと。・・・・・・あれ、どうしたんですか。あの、もう終わりですか・・・こまったなあ。 えっメスの方はまだいけますか、それじゃわたくしが代わりにやりましょか。これこれ、オスのかた。タッチ交替。あんたこのカメラを持って、いいですか。それじゃ失礼」


「ひえ−」
本屋の店先でおれは大声を出してしまった。あの字宙人がおれの家へ来てから一か月ほどたってただろうか。
会社の帰り、おれも好きなほうだから、いつも買ってるエロ本を手に取った。 そのエロ本の表紙はおれの家内の写真ではないか。「へへへへ」次には笑い出してしまった。 すっ裸で、とんでもないポーズをしてる。そして右下にぱ『激写・キッチンの乱交!!』と金文字で印刷されていた。
ページをめくって、またもおれは叫んでしまった。「ぐわー・・・へへへへ」次には笑い出してしまった。この雑誌の半分はおれと家内の写真でうまってる。 ときどき、あの宇宙人と家内がからみ合っている写真もあった。

それから三日後、おれは社長室に呼ばれた。
社長は言った。「よくやるねえ、君も」
笑っていた。
おれも笑った。
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へそ

あき子はいい女だ。
顔だちも性格もおれにピッタリだ。結婚したいと思っている。あき子もそう思っているはずだ。
ところが、どうしても結婚にふみきれない理由があるのだ。 あき子は、おれが悩んでいる事に気づいて何回となくおれから理由をきき出そうとしたが、情けないやらばかばかしいやらで今まで何も話せなかった。 実は、おれにはヘソが無いのである。
ヘソなどなくってもおれは人聞であり、立派に男である。しかし、この世に生れてから何の役にもたたない穴っぽこも、こういう場合、人生の大きな障害となる。
おれが、自分にヘソが無い事を始めて知ったのは小学校五年生になったばかりの春だ。それまで全く気がつかなかったのだから、おれの頭は子供の頃からあまり良くなかったみたいだ。
その日は学校が休みだったから、たぶん日曜日だったのだろう。朝からおやじ も、おふくろも妙に無口であった。子供心にも何となくいつもと様子が違うというのが判った。
タ食の時も三人はテレビを見つめたまま、だまって食べつづけた。
突然おやじが低い声でしやべりだした。

「実はなあ健一。おまえはタマゴから生れたんや」
急におかしな事を言い出した。頭がおかしくなったのではないかと、おれはおやじの顔を見た。おやじの顔は真剣であった。
口はへの字の形をしていて、力が入っている。
「何か言うたか」
「言うた。おまえはタマゴから生れたと言うたんじや」
おれは笑った。大笑いした。あたりまえである。これ以上笑うと腸捻転をおこすというくらいに笑った。
もう笑えんわいと、おやじの頗をチラッと見たら、やっぱり口はへの字であった。 テレビはニュースをやっていた。アナウンサーの声が、まるでエコーをきかせたようにきこえてくる。
どうもおかしい。ジョークにしては芝居がうますぎる。そういえば、いつもこの時間は食器を洗ったりしているはずのおふくろがいない。どこかべつの部屋へいってるようである。 おれは何を言ったらいいのかわからないので、話しを変えようとした。 「おかあさん、どこへいったん?」
「家におる。それよりおまえ、おとうさんが今、言うた事きこえたんか」
「きこえた。ぼくはタマゴから産まれたれたとか‥‥‥」
「そうじゃ」
「なんのこっちや、もしぼくがタマゴから生れたんやったらヘソが無いはずやないか、ぽくにはちゃんとヘソがあるもん」
「無い」
「あるわ」
ばかげているとは思ったが、おれはシャツを胸までまくリ上げて腹を出した。 腹のまんなかにちゃんとヘソはあった。
「ほら見てみい、ちゃんとあるやないか」
「それはヘソやない。うそや思たらシンナーでふいてみい、とれてしまうはずや。そのヘソはマジックで書いてあるんやさかい」
おれは、もうすぐおやじが大笑いしてどうやおもしろかったやろ、おまえもこんなアホな話しにようだまされたなあといってくれるのを待っていたが、おやじの顔はますます険しくなった。
「そんなん、うそや」
もちろん、おれはおやじの話しを信じたわけではなかったが、自分のヘソを人差しゆぴで強くこすった。
その瞬間、腰の力が抜けていくのが自分でも判った。 ヘソがとれて指に着いたのだ。
そこへ、おふくろが飛び込んできた。 ただ、わあわあと泣くばかりである。家の中は、しばらくおふくろの泣き声だけがひぴいた。 やっと、泣きやんだおふくろは焦点の合わない目をしてボソボソとしゃべり出した。
「健一、おまえは今おとうさんが言った通りタマゴから生れたんや。ほんでヘソも無いんや。おなかの黒い丸は、 毎晩おとうさんがおまえが寝てる間にマジックで書いとったんや。学校で身体検査がある前の晩は特に念いりに書いてもろた。 それから、おまえが生れた時の写真があるやろ、おまえも見たことのあるやつや。あの写真にはちゃんとヘソがあるけど、 あれもおとうさんが後で写真にボールペンで書いたもんなんや」
あまりのショックにおれは二週間ほど学校を休んだ。しかし、子供というのはどんな事にもすぐ順応するらしい。おれは、自分で自分の腹にヘソを書くようになり、いつもと変らず学校へ行くようになった。

あれから二十年たった。
どうしても、あき子との結婚にふみきれないのはこんな理由があるからだ。結婚してからも密かに毎日ヘソを書くわけにもいくまい。  しかし、いつまでもこうしてはいられない。無情にも歳というのは放っておいても増えていく。
おれは決心した。
あき子に総てを打ち明けよう。 デートの帰り道。おれはそれを話すチャンスを待っていた。何も知らない人にしてみればとんでもない話しである。そう簡単に話せるもんじやない。 二人共、夜道をだまって歩いていたが、ふとあき子と目が合った。
信じてくれるかどうか判らないが、おれは一気に総てを話した。
意外な返事が返ってきた。
「知ってるわよ、そんな事」
「何だって、そしたらおれにヘソが無いという事を前から知っていたというのかい」
「ええそうよ。健一さん、あなたの右の眉毛の上にホクロがふたつ並んでいるでしょ」
おれには確かに右眉の上にホクロがふだつある。
「そういう人は、みんなおヘソが無いのよ」
「本当かそれは」
「もちろん。現にあなたがそうでしょ」
「そりゃそうだが・・・・・」
こういう具合に話しが進むとは夢にも思わなかった。まあどっちにしてもおれにとって悪い事ではない。
「それでね健一さん。そのホクロが右の手の平にふたつある人はねえ・・・・」
「なんだい、君の右手にはホクロがふだつあるけど・・・」
「ええ、そうよ。私の手の平にはホクロがふたつあるわ」
「それがどうしたんだい」
「そんな人はね、おヘソもふたつあるんです」
そう言ってあき子は右手を出した。
その手の平にはいつも見なれた小さなホクロがふたつ可愛く並んでいた。
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童話

むかしむかし ある国に ベン という男がいました

彼は ジョデキ という女と結婚し ふたりの子供ができました

ひとりめは男の子で バルトク という名前です

二人目は女の子で ソガデル と名付けました
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