息子のやろう、またタイムマシンを買ってきやがった。
だいたいこの数年の間、おもちゃのメーカーがタイムマシンを売り出すようになってから小遣いはほとんどそれに使ってる。これで、もう3台目だろうが。
そういえば、父さんがタイムマシンの免許をとったのは20歳過ぎだったかなあ。あのころはマシンも高くて中古を買った。
中古といってもボーナスでやっと半分支払っただけだもんな。
いやもう、とんでもない時代になったものだ。あいつが中学に入学する時に、どうしても欲しい、友達はみんな持ってるとかでしかたなく買ってやったもんだ。
それがなんだ、高校生になってアルバイトを始めたのはいいけど、その金をみんなタイムマシンに使ってしまうとはな。
おもちゃメーカーが販売してるといったって、最近のマシンは腰をぬかすくらい高性能だ。もともと過去行き10年、未来行き10年という制約がついてる。
それだからこそ免許がいらない。それなのに、どこかのメーカーがタイムアクセラレータとかいう名前で100年のタイムトラベルが可能なオプションを作った。
そいつを取り付けるとスッ飛びマシンになる。よく分からんが、こんなオプションは法律にひっかかるんじゃないのか。
しかしまいった。父さんが旅行の時に使う4人乗りのマシンは50年しかいけないのに。しかも加速がわるい。父さんも新しいのが欲しいよ。
あ、そうそう。息子のもってるマシンは一人乗りなのに、彼女かなんか知らんが時々二人でトラベルしたりしよる。ばかもんが。色気付きやがって。
また、検問で捕まるぞ。反則金を払うのに母さんから金をもらってるのを父さんはちゃんと見てたぞ。
おいこら、どこへ行く。や、またトラベルか。もう夜も遅いのに、宿題はしたんか。え、こら。
行ってしもた。
また彼女とデートか。2098年へ行くんだろ。どうも2098年の8月3日には高校生のタイムトラベラーが集まる広場があるらしい。週刊誌で読んだことがある。
不良が集まってるんじゃないのか。そこで宿題をするだと。
あほらしい。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ。それより彼女とはどんな関係なんだろうか。あんな事したり、こんな事したり。いやんもうばか。あはは。
あっ。母さん、今の聞いてた? そう。失礼しました。
おれは若者の性について真剣に考えてるんだ。
エッチもいいけど妊娠したらどうするんだ。子供を生むときは現在で産めよ。とか言ったって息子が産むわけじゃないんだから、今度彼女に会ったらちゃんと言い聞かせとかないとな。
タイムトラベルしてる最中に赤ん坊を産んだら手続きがとんでもなくやっかいだからな。だいいち赤ん坊の年がマイナス15歳とかになったらどうする。5歳で成人式に行くのか。
まだマイナスならいい。過去で出産したら生まれてすぐに70歳てな具合になるぞ。その赤ん坊が女の子だったとしましょいな。
それでまた器量好しの別嬪さんになったとしましょいな。ね。
いくら別嬪さんでも、いわゆる年頃になって95歳の女と結婚してくれる男がいるか。えぇ、そうだろ。
だから、おもちゃのタイムマシンは青少年を破滅に向かわせる機械なんだ。
おれも、なかなかいいこと言うだろう。な、母さん。おい、母さん。
あっ。
なんや、寝てるんか。
息子のマシン(後編)
「だってオヤジ。半年前に買ったタイムマシンなんか、かったるくて走れねえよ」
「そうか」
「そう、あのポンコツ、エンジンがt486だぜ。今はもうt686の時代だ。t686はタイムアクセラレータに対応してるんだ。
アクセラレータを積むと3倍のスピードになるし、過去未来とも200年のトラベルが出来るんだ」
「えっ100年じゃなかった?」
「違う200年対応がこの春に出たよ」
「そうか。で、買ったのか」
「あぁ買った」
「時間交通法という法律があるのに、そんなモノよく販売する事ができるなぁ。おまえの乗ってるのはホビークラスだから10年だけじゃなかったか」
「さあ、法律の事はよく分からない。分からないけど、200年対応のタイマックはコンビニで売ってるんだぜ」
「何だ、そのタイマックというのは」
「タイムアクセラレータのことだよ」
「ああ。そういえばテレビでタイマック200ってコマーシャルしてるな」
「オヤジ、知ってんじゃない」
「ありがと。そんなことはどうでもいいんだ。おまえにちょっと話しがあってな」
「話し?」
「そう」
「マシンの話じゃなかったの」
「いやマシンもそうだけど。彼女のこと・・・・・・・・・」
「彼女?」
「そうだ、おまえの彼女」
「ああケニーのことね」
「け。け、けにい」
「そうケニーだよ。かわいいだろ」
「外国人か?」
「何言ってんの外国人なんて古い言葉なんか使って。ケニーは2111年で知り合ったんだもの。国籍なんてないよ
・・・・・・・・・・。おいオヤジ、なに気絶してるの。大丈夫か。パシ!」
「いて。だ、大丈夫だ。父さんは大丈夫だ。それよりな、おまえ彼女となにか、あの、あれ、その、あんなこと」
「なに赤い顔してるの。あれ、それってなに」
「あはは。ズバリ言うとセッ、セッ、セッ。セック。」
「セックスか」
「わ、はっきり言うな。それだ、それ。したのか」
「したよ」
「わ、そんなこと。高校生のくせに」
「高校生であろうが、中学生であろうが性的成熟があれば当然のことだろ」
「性的成熟なんて難しい言葉をつかいよって、おまえ、子供ができたらどうするんだ。その子供が女の子だとしよう、
そして年頃になって結婚しようというとき95歳だなんて、ああ、だめだだめだ。だめだ」
「なんだそれ。なにを訳の分からないこと言ってんの。どっちにしたって子供なんかできるはずないよ、バーチャルだから」
「バーチャルってか」
「そう」
「何だそれ。体位の名前か。それとも避妊の器具か」
「馬鹿かオヤジ。バーチャル知らねえのか」
「知らん」
「バーチャルってのはね、バーチャル・リアリティのことだよ。僕たちは周りの環境から五感に受ける刺激を通じて周囲の状況を知覚するわけだろ。
バーチャル・リアリティというのは人工的に視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚 などに刺激をあたえることによって現実とは異なった空間、時間を擬似的に体感するものなんだ。
仮装現実感とか日本語で言ってた時期もあった。聴覚は昔っからオーディオで生かされていたし、視覚は3Dの技術でこの現在でも使われているだろ。
難しかった触覚と味覚は2050年頃には完成されてゲームなんかに採用されたりした。僕がケニーと知り合った2111年ではセックスも体を重ねるようなことはしないのが普通だ。
バーチャルセックスは、ちょっとしたコミュニケーションの手段だよ。挨拶みたいなもんだ。だからオヤジ、子供ができるはずがないのは分かるだろ。
もし、僕たちに子供が出来たとしても時空調整異動届をセンターに届けたら、その子の歳、僕たち歳も整合性のとれた計算をしてくれるし、どの空間に住んでもつじつまのあう時間調整をしてくれる。
空間移動におけるパラドックスなんて問題もなく解決されるよ。だからオヤジそんなに心配しなくても・・・・・。なあ、オヤジ・・・・・・・。なんだ、寝てんのか」