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休暇

目覚まし時計がなった。7時だ。
ああ、もう朝がきたか。会社に行かなければならない。どうしておれは人間なんかに生まれてきたんだろう。牛にでもうまれてりゃもっと自由に、朝だって10時頃までごろごろ寝てられるのに。腹がへったらその辺の草をムシャムシャ食べればいい。昼寝をしたけりゃごろんと寝ころべばいい。ああ、牛はいいな。できるなら牛になりたい。だけど現実はきびしい。なんだかんだ文句をいっても会社へ行かねばならん。
「ちくしょう、もーっ、牛になりたい」と思わず叫んだ。
するとおれは牛になってしまった。
た、た、た、大変だ。牛になっちまったよ。どうしよう。顔を洗うこともできないよう。こんなヒズメで歯ブラシが持てるかよ。えらいことになってしまった。牛になりたいなんて思ったもんだからホントに牛になっちまった。このまま会社へ行ったらみんななんて言うだろう。営業の田島のやろうは「お、おまえ牛になってしまったか、いつもノロノロと仕事するからだ。あはははは牛になった、牛になった」とかいって大騒ぎをするだろう。それより受付のルミちゃんがおれを見たらどう思うだろう。まずいよ。牛なんてかっこわるい 。
休暇だ。
そして今日で三日間、会社には行っていない。風邪で熱があると連絡してある。おれはずっと牛のままだ。
一日中テレビばかりを見ている。
昼のワイドショーを見ていたら、北海道の牧場で草を食べてるおかしな人間が報道されていた。全裸の男だ。四つん這いになって牧草を喰っているではないか。
まいったな。よく見るとその男はおれだった。
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露天商

小学二年生になる俺の息子が小さなカメを買って来た。
学校の帰りに露店商で買ったらしい。黒いカメだ。
イシガメとかなんとか言うのだろう。
息子はそいつを水槽で飼っていた。中に石や砂利を入れ、水を少し張ってある。
まあ人間で言えば六畳―間という狭い室であるが、そのカメは水槽の中を がさごそと走り回ったり、せわしけに泳ぎ回ったりしている。なかなか元気がいい。
カメは何でもよく食べた。
野菜の残リ屑。魚のアラ。米のめし。炊いてあろうが焼いてあろうが何でも食べた。
俺の妻も息子と―緒に、かわいいわねえなどと言いながら食パンをやったりしていた。 とにかく何でも食べた。そのぶん、どんどん大きくなる。普通、露店で買ったこういう小動物というのはすぐに死んでしまうものだが、こいつは違っていた。 めっちや元気である。
それよりも成長のしかたが異常である。買ってきた時はマッチ箱ほどの大きさであったのに、二週間で俺の手のひらくらいになった。 これはイシガメなんかじやないな、南米産のカメだろうか。まあ、あっちにはいろんなカメがいるからなあ。
しかしこんなに大食いで成長のはやいカメなんて今まできいたことがない。
そういえば足がみょうに長い。
おかしいなと思ったが、こんなことを妻に言ってみたってしょうがない。だいいち俺の妻はこういう動物に関しての知識が全くない。 妻に言わせればイモリでもヤモリでも特別天然記念物のオオサンショウウオでさえトカゲなのだ。 野原にいる虫はクツワムシでもキリギリスでもみんなバッタと呼ぶ。ましてカメなんぞは海ガメと、その他のカメという区別しか彼女にはない。 だから、息子が買ってきたカメがどんなに成長がはやかろうが手足が長かろうが知ったことじやないのだ。
妻がそうであるからして小学二年生の息子にその異様さが分かるはずがない。カメは一日一日、目に見えて大きくなっていく。
こいつはいったいなんだ。
アサガオのツルじゃあるまいし、梅雨どきのタケノコじゃあるまいし、こんなにどんどん大きくなっていいものであろうか。
大きくなって喜んでいるのは息子だけであった。俺が会社から帰ると、息子は必ずカメを水槽から出して畳の上で―緒に遊んでいる。タ食の時もカメと―緒に食べるんだと言うしまつ。 さすがにこれに関しては妻に怒られてカメと食事を共にする事はなかった。しかし、食事がすむと―緒に風呂にはいるし、夜の十時頃までそのハ虫類とテレビを見ている。 その時のカメは息子に抱かれて煎餅をかじったりしている。
息子は自分の最たる友人のごとくカメを可愛がった。カメも異様であるが息子も異様であった。
そうこうするうち、カメはまたまたでかくなった。水槽の中に入れると動くスペースがない。そして、長い足を使ってすぐにはい出してくる。
その時のカメは、なにか笑っているような顔をした。無気味だった。その頃からカメは息子と同じ布団で寝るようになった。

息子がカメを買ってきてから一カ月ほどたった。
その日は日曜日だった。朝の早くから息子はカメと遊んでいる。時々何か話しかけたりしている。
カメと話しができる。まさか。いくらなんでもそれはないだろう。俺は起きたばかりで、コーヒーを飲みながらその光景を見ていた。カメは甲羅が40センチ以上ある。 最近、特に成長がはやくなったようだ。前にも増して足が長く見える。
こんなものをよくも家の申で伺ってるもんだ。息子はあんなに喜んでいるが、これ以上大きくなったらたまったもんじやない。 食事だってばかにならない。大人の―人分は喰ってるだろう。いや二人分は喰ってるだろうか。可哀想だが近いうちにどこかの川に捨ててこよう。 いや、川に捨てたりしたら生態環境に影響してしまうか、それなら動物園にでも相談するか・・・。
それにしても無気味なカメだ。
そういえば頭の形がカメらしくないな。どこか二ワトリに似ているし、頭、足、尻尾が妙に白っぽくなってきた。
底に残ったコーヒーをぐいと飲みほし、散歩にでも出かけるかと思った時、俺はカメが二本足で歩くのを見てしまった。カメが立って歩いた。
なんてこった。
前足でひょいっと反動をつけて立ち上り、ひょこひょこひょこと畳―枚分くらいを歩いた。 歩いた。あるいた。カメが歩いた。二本足で歩いた。ひょこひょこ歩いた。俺はうわ言のようにつぶやいていた。
「お、おまえ。このカメ。学校の、帰りに。買ったと言ってたが。いったいどこで買ったんだ」
「学校の帰り」
「そりや分かってる。いったいどのへんだ」
「分んない。忘れた。道ばたで売ってた」
「忘れたって、おまえ。まあいい。それじゃ、どんなおじさんが売ってた」
「分んない。忘れた。忘れたけどカッパみたいな顔をしたおじさんだった。おじさんじやなくって おにいさんだったかもしれない」
「カッパみたいな」
「そう」
俺はあらためて今 息子に抱かれている、でかいカメを見た。
カッパ。かっぱ。河童。こいつはカッパだ。絶対にカッパだ。間違いなくカッパだ。
「カーッカッカッカッ」
「なに言ってるの、おとうさん」
「カッカッカッカ。カッパだあ、そいつはカッパだあ早くすててこい。化けもんだあああ。わぁ。こっちへつれてくるな」
「このカメは化け物じやないよ」
「わ、わかった。わかったから、あっちへつれて行ってくれ」
二階のべランダで洗濯物を千していた妻が俺の大声をきいて階段を降りてきた。
「なに言ってんのよ大きな声で。そのカメがどうかしたの」
「カメじやない。カッパだカッパ。そいつはカッパなんだ」
「あ、そう]
そう言うと妻はまた洗潅物を千しに二階へ上っていく。 そして階段の中ほどに立ち何か考え事でもしているようであったが、ぎゃああという悲鳴と共に階段をころげ落ちてきた。
その時その怪物は俺の顔を見て、にやっと笑った。

それからまた―週間。
そいつは完全にカッパになった。
体はひょろっとしていたが身長は俺より少し低いくらいで、この分だと二、三日で追い越されてしまうのではないだろうか。 そうとうに知能が発達している。俺の服を勝手に箪笥から出して着ているし冷蔵庫の食べ物も勝手に食べる。テレビも勝手につける。しかも、好んで二ユースを見るのだ。
時々「ぎょっぎょっ」という気持ちの悪い鳴き声を発する。そして、なにもする事がないと昼寝をしている。
カッパは外へ出ない。ずっと家の中にいた。お客が来た時は押し入れの中に隠れる。なぜか俺達家族以外には顔を見せようとしなかった。
なんとかしてあいつを追い出さなければと思った。
無理であった。
どうして追い出そうかと妻に相談をしていた時なんか、カッパはそうっと音もたてずに近ずいてきて俺の顔をじっと見つめた。
ぼくを追い出そうとしてもダメだ。やるならやってもいいが、後でどんなめにあうか知らないよ。カッパの目はそう言ってた。
警察に電話をしようとした時もそうだった。 後ろから忍び足で近ずいてきて、ぬっと顔を出すのだ。あの目を見てしまうと体が震えてカが出なくなる。カッパば魔性の目をしていた。

あいかわらず息子とは仲がいい。
困ったものだ。仲よくするなら人間と仲よくしてくれ。あいつは化け物なんだ。息子は化け物の手先になったのか。
時々ひそひそと何か話している。やっぱり息子はカッパと会話ができるらしい。どんな話しをしているのか分らない。俺とか妻の前では、ただ無邪気にふざけあっているだけであった。
だれか助けてくれ。このまま呪われた生活がつづくのであれば俺達がこの家を出ていくしかない。いや、そんなことをしたってこの化け物は俺達にどこまでもついて来るにちがいない。

カッパがいなくなった。
あの悪夢のごとき生活がこんな結末で終ろうとは思っていなかった。突然いなくなった。
なぜだ。
ばかな、そんなこと考える必要があるか。とにかくカッパはいなくなったのだ。
俺の上下の背広とワイシヤツが無くなっていた。たぶんあのカッパが着ているのだろう。
あのカッパが警察につかまって、着ているものが俺の服だと分かったとしても総て今までのいきさつを話せばいい。信じてくれるか信じてくれないかは、またその時のことだ。
どっちにしたってあの化け物はこの家からいなくなった。もうあの悪魔のような目を見ることはない。妖怪のごとき笑い声を問くこともない。
ただ、カッパがいなくなって息子がどんな行動をとるかが心配であったが、不思議な事に息子はそんなに驚かなかった。カッパが突然、姿を消したのに割と平然としている。 息子はあっちこっちの室を探し「カッパ、いなくなったね」と言った。ただそれだけであった。泣きもしなければ、必要以上に探し回ることもしなかった。
化け物であったが、あれでも息子の友達だったのだ。それなのに。いや、これも深く考える必要はあるまい。何がどうであれカッパはいなくなったのだ。家庭に平和がもどったのだ。
だがまてよ。息子が小さなカメを買ってきてこから数ケ月間、悪夢のまっただ中にいるときは考えてもみなかったが、露店でカメを買ったのはうちの子だけではないはすだ。 学校帰りの道に店を出してたというから、たくさんの子供が買ったにちがいない。そこの家庭ではどうだったのだろう。そのカメはやはりカッパになったのだろうか。 うちと同じように恐ろしいめにあったのだろうか。それとも、うちの子がたまたま―匹まじっていたカッパを買ったのだろうか。
息子にきけば分かるかもしれない。
しかし、息子に尋ねるのはためらいがある。カッパと仲のよかった息子を思い出すと怖くなってしまう。せっかく"普通の子供"にもどったのだ。 今さら、またそろカッパの話をすることもないだろう。それこそ寝た子を起こすという言葉通りになってしまうではないか。 この町に何匹ものカッパがこっそりと棲みついているなんて想像しただけでも背中が寒くなるが、だからといって俺に何ができるというんだ。 俺の家庭が平和であれぱいい。俺の家族が幸せであればいいじやないか。そうだ、俺の考えのどこが間違っているんだ。
これでいい。他の家庭のことなど心配することはない。

カッパのことなど、ほとんど忘れていた。
思い出す時があっても恐柿と共に記憶がよみがえってくるということはない。あれは本当に夢だったのではないか。そうだ、夢だったのだ。
あんな馬鹿げたことがこの世に有り得るはずがない。このハイテク時代にカッパなどという空想の漫画ごとき生物がいるはずがあるか。
俺の頭の中には確かにあのいやらしいカッパの姿形は記憶されている。 だけど毎日会社で忙しく働き、今こうして満員電車に揺られながら我が家へ帰っているごく普通のサうり―マンにとってはあんな奇っ怪な出来事は"嘘"とか"冗談"に変形しなければならなかった。
普通のサラリーマンが普通のサラリーマンであるためには異様な体験は不必要であり、邪魔であった。俺は無意識のうちに、そして強制的に自分を普通のサラリーマンに仕立てあげているのだ。 これも我が身を守る人間の本能であろう。妻は妻で、忙しく家の仕事をやることで"普通の妻"になれるのだ。以前、俺の家にはカッパが棲みついていただって?そんなばかな。嘘だ。ジョークだ。
俺はどこにでもいる普通のサラリーマンたぞ。どこにでもいるこんな平凡な人間には平凡な人生が与えられていてこの平凡こそが幸せというものなんだ。 俺は時には仕事の不満も言う、ごく普通のサラリーマンとして自宅の最寄リ駅を降りた。そして、ごく普通のサラリーマンとして、他のごく普通のサラリーマン達と同じように我が家へと足を向けた。
駅前の商店街を抜け、信号を渡った。

あの男は今日も同じ場所で店を出していた。
三日ほど前から男はここで露店をやっている。たくさんの水槽を歩道にならべていて、その周りには子供達が集まっている。
水槽の中にいるのは黒いカメだ。
その露店商の男は、俺のシャツと俺の背広を着ている。
そのカッパのような顔をした男と目が合いそうになった。俺は急いで顔を伏せた。
そして俺は、ごく普通のサラリーマンとして、その場を通り過ぎた。
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うどん

「へい、いらっしゃい。何しましょ、おにいさん」
「あの、天ぷらうどんお顧いします」
「へ―い、テンソいっちよう」
「あの・・・・」
「なに?」
「天ぷらそばじゃなくって天ぷらうどんなんですが・・・・・」
「・・・あっ、あは、あははは‥・‥天ぷらうどんね、天ぷらうどん。へえい、へいへいへいへい。ごめんなさいよ、おにいさん」
「・・・いいえ」
「へいへい、しばらくお待ち下さいよ・・・・・。 あっ、へえいへいへい。どうぞどうぞおねえちゃん、へい何しましょ。え、親子どんぶりでっか。へいへい、おねえちゃんに親子いっちょう。・・・おねえちゃんOLでっか? え?違う。 ほんなら学生さんでっか。そうでっか、こ りや失礼。いやあね、この頃の娘さんてのはどうも齢が判らんでねえ。学生さんでも妙に色っぽいから、ほんまに。 で、どこの大学で・・・・・。え?いや、大学生とちゃう。ははあそうでっか。え、いや、何と、高校生。高校生でっか。そうでっかいな。いやもうごつい別びんやよってに、 ついもう、いやいや、なんとも、あははははは」
「あ、あのう・・・・・すいません。ぼくの天ぷらうどんは・・・・」
「ん、あ、そうそう。おにいさんの注文ね。遅いでんな・・・・おおい、おにいさんの、ええと・・・・ざるそば、お おい、ざるそばまだできんか」
「あの」
「何?」
「あの・・・・天ぷらうどん・・・」
「え、天ぷらうどんでっか。注文変更ね、いいですよ。おおおい、ざるそば取消して天ぷらうどん頼んます・・・・いや、しかしねえちゃん別びんやからオトコ にようもてまっしゃろ。ええな、若いむすめさんは、こう、もう何ちゅうかぁ。あは、あは、あははははははははははははは。 いやそんな怒った顔せんといてえな。怒った顔がまた色っぽい、な。いひ、いひ、あはははははは・・・・。おねーちゃん。あは、あは、・・・・おっとっとっと親子どんぷりやったね。 へい、お待ちど。お、おお、おお、白い可愛いおてて。さわったろか。え―い、ちょん。あっ、ああ・・・・、おおこわ。そない怒りないな、・・・・怖い恐い」
「・・・・あのう・・・ぼくの・・・」
「何?」
「天ぷら・・・」
「ほぃほい。分ってますがなおにいさんできてまっせ、天ぷら定食。へ―い、お待ちど」
「あの」
「何?」
「うどんなんですが・・・」
「へ?うどんでっか」
「はい」
「何うどんしましょ」
「は?」
「何うどんしましょ、と言うとんですがね」
「え?だから、天ぷらうどん・・・・」
「ほいきた。天ぷらうどんね。おーい天ぷらうどん追加・・・・・そやけどおにいさん、よう食べまんなあ。定食くうて、まだうどん食うんでっか」
「ちがいます」
「ちがう・・・? そうか分った。うどん食うてから定食くうんやろ」
「いえ・・・」
「ちがう・・。ははん、ほんだら―緒に食べる・・・。あっち食うてこっち食うて、そやろ」
「違うんです。定食は食べません」
「て、定食くわん?なに言うとんのやもったいない。せっかく注文したのに、それ食わんちゅうのは、そりゃもったいないでおにいさん。しかも店のもんに悪いわ、せっかく腕にヨリかけて作っ た天ぷら定食やのに・・・・・注文だけして、食わんちゆうのは・・・」
「注文してませんけれど・・・・」
「わーびっくり。な、な、なに?今、何言うた」
「・・・・・天ぷら定食は注文してないですけど」
「えっ、えっえっえ。ええーえー。にいちゃん、そりやないで。せっかく作らしといて注文してないとは何でっか、ええ、あんたこの店つぷす気だっか。 えっ?あっ、おねえちゃん、おかんじょでっか。へいへいへい三百五十円です。え、へい、おおきに、百五十円おつり・・・・はい。おお―お、可愛いおてて・・・・ ええいチョン。あっ、お―こわ。また怒りよる。あはははははははは、また来てや・・・・おしりプリンプリン・‥・あは あは、あはは‥‥‥‥。 おいこら、にいちゃん。あんた、この店つぷす気だっか」
「いえ・・・・・・・・・・」
「確かに注文したやろ、天ぷら定食・・・・・・・・・」
「いえ、あの、あ、はい・・・・」
「そうやろ。あたりまえやないか。おっとっと、待ってや、うどんができたさかいに。へい、お待ちどう、かやくうどん」
「え、いや、あの。天ぷら‥‥‥」
「天ぷら?・・・天ぷら定食はここにある やないか」
「はい、確かに」
「‥‥‥ようわからんやっちやなあ」
「だけど」
「だけど、何やねん」
「いえ‥‥」
「ほんまに、ようわからん男やわ。ごちゃごちや言わんとはよう食わんかい」
「はあ」
「ほんまに最近の若いもんは何を考えとんのか わからんわ。自分の言うた事に責任持たれへんのかいな。ズウタイばっか大きなって、ほんま頭の中カラッポや。 カラッポのスッカラカンやで。はっきり言うて、はっきり言うてたよんない。自分の意志がはっきりせん。決断力がない。あんな男は女にもパカにされよる。 だいたい苦労を知らんからや。ええ学校出とんやるけど、いらん事ばっか覚えくさって、肝心なことは何も知らん。もっとしっかりせいよ、ほんま。あほとちゃうん か・・・・・・。おおい、にいちやん」
「はっ」
「しっかりせえよ」
「・・・・・・」
「あんな、あほな奴が明日の日本を背おていくとは、ほんま考えただけでもゾッとするわ。まあ、あいつは女にはもてんやるな。ええ服きて、ええ靴はいてしと うけど、やっぱり男は中身やからな。わしみたいに中身がないとなあ、ほんまあかんわ。それと、やっぱ優しさやなあ、やさしさ。男は、ほんま・・・・」
「おあいそ」
「ほぃほぃ。にいちゃん。え―と、千三百円」
「あの」
「何?」
「千二百円とちがいますか」
「ま、また、あほ言いよる。天ぷらうどんが三百五十円。天ぷら定食が九百五十円や足したら千三百円やないけ。足し算もでけへんのか」
「いえ、あの、今、ぼくが食べたのはかやくうどんと、天ぷら定食なんですが‥‥」
「あ、あほ、あほ。おまえ天ぷらうどん注文したやろ、ちゃうか?」
「しました」
「こいつ、よう言うわ。天ぷらうどん注文 しとって食べたんはかやくうどんやて」
「はい」
「おちょくっとんのか、ええ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「にいちゃんよ。あんまりからかうと、おっちゃん、しまいに怒るよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「わかっとんのかい」
「・・・・う・・・・・うう」
「何や、その顔は。ええ」
「う、・・・・・・・・・・・う、う・・・・・」
「文句あるんかい。え、にいちやん」
「う 。・・・・」
「何とかいえや」
「じゃか・・・」
「何やて、もっとはっきり・・・」
「じゃかっしゃい!」
「へ・・・」
「じゃかっしゃい言うとんじゃ.おっさん!!」
「へえ」
「ひとが、おとなしいにしとったら、つけあがりくさって。こら、おっさん」
「げ・・・そ、そんな。テーブルの上に足のせんでも」
「やかっしゃい。表へ出んかい」
「そんな大きな声ださんでも、おにいさん」
「だまれ、おっさん」
「はいっだまります」
「今、食べたんはなあ・・」
「はい。おにいさんが食べたのは・・・」
「天ぷらうどんやのうて、かやくうどんじゃ」
「はいはい、どおりで」
「どおりで、何じゃ」
「かやくだけに、あんた、爆発しました」

おそまつ。


(注)意味不明な言葉があるかもしれません。関西の言葉で会話しておりますので。
大阪弁をさらに詳しく分析してみよう
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帰ってしまう宇宙人

銀色の円盤が地上に降りてきた。
どんな宇宙人が現れるのだろうか。期待と不安。
人々は、複雑な気持で円盤の扉が開くのを待った。 地上では数十台のテレビカメラが、その扉にレンズを向けている。
宇宙人は狂暴かもしれない。ゴジラのような顔をしているかもしれない。
ひょっとしたら地球にはない兵器で地球人をみな殺しにするかもしれない。
やがて扉は開いた。
人々は大喝采を送った。宇宙人はやさしい顔をしていた。肌の色こそ違っているが、地球人と同じ形をしている。 友好的な宇宙人に違いない。彼らと文化の交流ができるかもしれない。地球人はあらためて宇宙人に喝采を送った。
ところがどうだ、宇宙人は何やら叫び、あわてて扉を閉め、空の彼方へすっとんでいってしまったのだ。

それから何度も地球に円盤がおとずれた。
しかし、みんな同じ言葉を残して帰っていった。
宇宙人の残した言葉。地球の学者たちは、その宇宙語を研究した。人間の頭脳とコンピュータの頭脳を総動員させて研究は進められたが今―歩のところで解明できない。
ありとあらゆる努力をした。ありとあらゆる情報をコンピュータに入力した。
何年もかかったが、ついに宇宙人の言葉が解明される日がきた。
「みなさん、お待たせしました。このコンピュータのポタンを押せば宇宙人のあの言葉が翻訳されて出てきます」
技術者はポタンを押した。
軽やかなプリンターの音がし、印刷された用紙が出てくる。
そこには、こう書かれてあつた。
ワオー
ウチュウジンダ
ハヤク 二ゲ口
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記憶喪失

青年は記憶喪失の女性と知りあった。
彼女は自分の住所も親の名前も、自分自身の記憶さえわからない。
過去の―切を忘れてしまった彼女であるが、優しくく魅力的な女性であった。
青年は彼女を好きになった。彼女も、私が頼れるのはあなただけ、と青年に好意を持つ。
恋がめばえ、めでたく結婚。
あまい新婚生活が過ぎ、何年かたったある日。彼女は足を踏みはずして階段から落ち、頭を強く打ってしまった。
またしても記憶喪失。
新らしい自分の名前も夫の名前も忘れてしまった。
何ということだ、俺の顔も、俺が夫であることも忘れてしまうなんて。
彼は嘆き悲しんだが、いつまでもこのまま放っておくわけにはいかない。 二人で旅行した時の写真を見せたり、思い出の場所へ彼女をつれていったりした。
しかし、だめだった。
彼は、思いきって彼女の頭を殴ってみたら記憶がもどるかもしれないと考えた。
それを実行した。
もっと早くごれに気づけばよかった。女の記憶は完全にもどったのである。
「あら、ここはどこ? 私は今まで何をしていたのかしら。そして、あなたは、だれ?」
彼女の記憶は "完全"にもどった。
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